第2期とちぎ自治講座 第3回講義

まちづくりにおける住民参加の仕組みづく

開催日:2004年1月10日(土)
開催場所:宇都宮大学農学部南棟4階 3401教室
講師:宇都宮大学  陣内 雄次 助教授


はじめに

 最初に自己紹介をいたします。私は永らくまちづくりを専門とするシンクタンクにおりまして、宇都宮大学に赴任してきましたのは5年前です。まちづくりのシンクタンクの仕事では、行政の方とか行政の方から仕事を頂いて仕事してきました。その中では、市町村の総合計画とか、東京のシンクタンクにいるときは国の仕事なども担当してきました。現在教育学部家政科の住居学のなかでまちづくりをやっています。栃木県の中ではいくつかのNPO法人の理事をやらせていただいています。

 とちぎ市民まちづくり研究所は、栃木に住んでいる市民の皆さんがまちづくりに入ってくるきっかけをつくれないかということで、私の研究室の社会人の方たちと立ち上げた研究所です。市民活動分野ではとちぎ市民文庫という活動を始めています。自費出版で「NPO法人解散」という本と、ボランティア活動団体のための「本づくり工房−企画から製本まで−」という2冊の本を出版しています。これはすべて自分たちで中身を書いて自分たちでコピーして製本したものです。1冊500円です。

 それから、いろいろなシンポジウムをやったりとか勉強会とか研究会をやったりしています。また、コミュニティービジネスを立ち上げるということをやっていまして、来年度は実際に学生たちが立ち上げるということをやってみようとということで、専門家の方たちの支援をいただいて準備を進めているところです。

1 まちづくりの現状と課題

(1)袋小路の日本のまちづくり

資料の一ページに袋小路の日本のまちづくりと書いてあります。私は大学に来るまでの20年間まちづくりにかかわり、行政の方たちと一緒に仕事をすることが多かったのですが、その中で日本のまちづくりと言うのは問題が多いなあと感じてきました。これは日本だけがそうだというわけではないと思いますが、日本のまちづくりというのは物作りを中心にして国全体が金持ちになりたいというまちづくりではなかったかという感じがしています。産業優先、効率性優先といいますかそういうことが強かったのかなと思います。それは、戦後復興ということで重要なことだったと思いますが、ただ、今、成熟社会になって数年後には総人口が減少していくという、以前とは全く違う状況が出てきていて、大きく方向転換をしなければというところに来ていると思います。とにかく戦後復興という中で一生懸命早く国を立て直そうという時期には効率的なまちづくりということがある面では必要だったということでしょうし、ある面では国とか地方自治体が主導権を握るということが重要だったかもしれませんが、今の時代ではそれではダメなわけです。国や地方自治体だけがまちづくりをやるというのではなく、いろいろな主体がまちづくりに参加、参画していかなければならないわけです。

お手元の資料の一ページに参加から参画へということで、ロジャー・ハート、ニューヨークにある大学の先生ですが、この先生が言っている子どもの参画の階段というのがあります。これはいろいろなところで言われていますが、実はこのロジャー・ハートの階段のオリジナルは違うのです。私は1980年当時アメリカの大学に留学していたことがありますが、その時の大学の講義で、都市計画の入門の最初に出てきたのがこの階段でした。この階段は、子どものまちづくりへの参画ではなくて、市民のまちづくりへの参画ということでしたが、全く同じ図でした。これは、別の学者が市民のまちづくりへの参加ということで作った図を、ロジャー・ハートが子どもの参画という図に書き換えたのです。ですから、これは、オリジナルは市民の参加の階段なのです。そういう観点から、この階段を見ていただきたいと思うのです。ロジャー・ハートは下から上に上がるに従って、市民の一人一人が主体的になっていくと述べています。

一番下の操り参画とか、三の形だけの参画と言うのは参画ではありません。誰かに言われてやるだけのことで、四段目あたりから参画に入ってきます。四段目は、子どもは仕事を割り当てられるが情報は与えられている。五段目は、子どもが大人から意見を求められ、情報を与えられる。六段目は、大人がしかけ、子どもと一緒に決定する。七段目は、子どもが主体的に取りかかり、子どもが指導する。八段目は、子どもが主体的に取りかかり、大人と一緒に決定する。この子どもを市民と置き換えるといいわけです。たぶん、今求められているのは、八番目の市民が主体的に取りかかり、市民が行政と一緒に決定するというところにいかなければいけないと思います。一言で言うと、今求められているのは次の世代の地域民主主義、これまでと違う地域民主主義というものをいろいろな主体が共有して、イメージを描き切れるのかどうかということが重要であると思います。

次に、元フランス大統領ミッテラン氏の補佐官であったジャック・アタリという人が述べていたことですが「ある変革のプロセスに参画することは辛い。しかし、死ぬときに“しんどかったけど頑張って生きた”と思える社会がいいのか、あるいは“何となく楽に生きたけれど何のための人生だったのか”と思う社会と、どっちを選ぶか」という議論が重要ではないかということを言っています。今の日本の現状というのは、この辺が市民に対して突き付けられているのかなという感じがします。従来どおりでよければ楽でしょうけれども、私もいろいろな市民活動に参加したり、行政の委託でいろんなことをやっていて正直言って非常にしんどいですね。物理的にもしんどいですし、ほとんど研究室に泊まり込みという状況が続いたりして、週の半分以上は研究室に泊まっている状況です。それだけの労力を使って、いろんな精神的な負担も大きいのに何故やってるんだろうと思ったり、やらなきゃどうなるんだろうということを感じたりするのですが、要するに自分が実践から外れていたときに何か空しいというか、やっぱり世の中を少しでも良くしようと思って生きたということとどっちがいいんだろう思うと、今はしんどいですけれども頑張ってやった方がいいのかなと思ったりしています。

私たちが参画していける社会というものを作り上げるのはすごくきついことだと思います。ただ、それは将来に向かってはすごく意義のあることだと思います。それに向かっていろんな主体がかかわっていくということが重要だと思います。

ある学者の研究によれば、EUについての研究ですが、縦軸に所得、横軸に満足度をとったグラフでみると、所得が上がっても満足度は決して上がらないということです。所得と人生における満足度と言うのは比例しないということです。要するに、人間はどういうところで満足を得るかというと、自分の人生を自分で決められるとか、そういうところで満足感を覚えることが多いということを結果として感じています。まちづくりにおける参画を保障されているということ自体が、私たちの生活における充実感とか満足度を高めていくものであると思います。ということを私はこのグラフを見て感じました。与えられるばかりのまちづくりというのはつまらないわけです。

次に、これまでの日本のまちづくりは行き詰まっているということですが、これは別に科学的な根拠があって言っているわけではないのですが、いろいろな経験から行き詰まっているのではないかと思っているわけです。行き詰まっている中からどういう方向性に変えていかなければいけないかということを、資料に整理してみました。私たちの基本的な考え方であるとか、評価基準とかをすべてシフトする、ここから変えなければいけないと思うわけです。

市町村には総合計画というまちづくりのマスタープランがあります。そのマスタープランでは人口予測とか産業の見通しとかいろいろなシミュレーションを行うわけです。予測を行うことは政策を考えていく上で非常に重要な作業ですが、10年とか20年という期間を対象とした計画になるわけで、当然、毎年とか3年に1回とかに見直し作業が行われて修正とか補正が行なわれていくわけです。私がシンクタンクの研究員として地方自治体の仕事をしていくなかで何度か経験したことは、やはり将来予測が過大であったことが多かったわけです。それは担当者の方が悪いということではなくて、そういうことをやらざるをえないような仕組みになっているなという気がしないわけでもありません。

例えば、10万人の都市があって、10年後の人口はどれくらいになるかを予測すると、いろいろな予測の手法がありまして、いろいろなパターンを出してその中間値を取るというのが一般的なやり方です。極端な話、10年後に20万人になるという予測と5万人になるという予測では全然まちづくりの性格が違ってくるわけです。10万人増えると、住宅をどうするか行政サービスをどうするか、それから5万人減るといったときは減らないためにどうするかということで政策は全く違ってくるわけです。私が経験したことは、人口が減るというのは困るということです。少なくとも人口維持か微増という結論が求められていて、それに基づいて予測を出して、それが可能となるような方向性を出していくということで妥協点を自治体の担当者の方と議論しながら作り上げていくということやってきました。

ある文献によれば、いま全国の市町村の総合計画に出ている人口予測を足しあげると将来の人口は1億8000万人になるということが書いてありました。これはあくまでも予測であって、それがどうだということではないのですが、まだまだ成長第一主義、効率性重視ということで、基本的なところが根本的に変わっていない気がします。これから数年後には総人口が減っていき、高齢化・少子化が進むなかで、私たちはまちづくりの方向性というものを根本的に変えていかなければいけないと思っています。

それでは、まちづくりの方向性をどう変えていくのかということですが、キーワードは「パラダイムシフト」です。中身は、資料に書いてありますように、行政主導ということではもうないわけで、市民参画というものをきちっと確立していかなければいけないでしょうし、それから、「協働」ですね、行政とか市民とか企業、それから市民を代表するNPOとかが連携して、ネットワークとかいろいろなやり方があるかと思います。協働の中で市民主体を実行していくということを私たちがどういうふうに描ききれるか、それからコミュニティーというものも、もう一度見直さなければいけない。自立、ボランティア精神というものももっと高めていかなければいけないと思います。

効率性・使い捨てというものから持続可能性というところへ価値観を変えていかなければいけないわけです。これは環境ということに大きく関わってくるわけですが、例えば、私の専門の住居学の話をさせていただきますと、2年くらい前に関西の大学の先生と共同研究で日本とアメリカ西海岸の居住者意識のアンケート調査を行いました。全く同じ質問項目を日本語と英語で行ったわけです。設問項目の一つとして、住居を自分が建てたり購入したりするときに、その住居が何年くらいもてば満足するかという項目があったのですが、日本の居住者の方で圧倒的に多かったのは30年、アメリカでは60年でした。実際、住宅統計を見ると日本の住宅が建てられてから壊されるまでの平均年数は30年です。アメリカが40から50年、イギリスが70年です。要は、日本という国は私たちの生活の基礎である住宅までも使い捨てということになっているわけです。一方で、住宅ということを少し広げてまちづくりという観点で見てみますと、中心市街地が課題になってきていますが、中心市街地も使い捨てられたのかなという気もします。

国土交通省の地域振興アドバイザーとして日本各地のまちづくりの手伝いをしていますが、北陸のある中小都市の中心市街地は絶望的といいますかほとんど人の気配がしない。東北のある中小都市では中心市街地にほとんど人がいない。いるんですけども人の気配がしない。一方で、郊外に出るとロードサイドショップやファミリーレストランがワーッとあって、人がいるんです。お昼どきとかには人がたくさんいます。中心市街地に行くとどこで飯を食おうかみたいな、飯を食うところがないじゃないかみたいな状況で、一方では郊外に出ると人がいっぱい溜まっているという状況があるわけです。

次のポイントは、開発ということです。これからは環境保全というところに力を入れていきましょうということです。それから、拡大からコンパクトでということですが、郊外へどんどん広がっていくということからもう一度中心市街地を見直す。もちろん郊外に住むということでもいいのですが、郊外でどういうふうに車を使わないで車に依存しないで、歩いても自転車でも十分満足して生活できるようなまちづくりを考えていいかなければならないと思います。

宇都宮市もかなりスプロール化していると言われますが、以前は、私たちは移動する手段がないためにコンパクトなところに住んでいました。歩いたり自転車に乗ったりしていましたが、そこに車が出てきて飛躍的に行動範囲が広がってきました。行動範囲が広がって郊外にポツポツとミニ開発とか区画整理とか住宅団地とかができて、最初のうちはみんな中心市街地に行っていました。何故かというと中心市街地にお店とか職場があったからです。それが今は職場とかもどんどん外に出ていっている、車さえあれば郊外ですべてが済んでしまう。中心街はなくてもいいよということになってしまう。ただし、郊外部の状況を見ていますと、車がないとすごく住みづらい。これから、少子・高齢化になっていくとこれでいいのか、車がないと生活ができないというまちづくりがいいのか、そういうスプロール的なまちづくりというのはある意味で非常に非効率的です。車がないと生活できないわけです。

それから住民から市民、NPOへということです。私たち一人一人が住民ということではなくて、もうちょっと自分たちの住んでいる地域に関心を持って行動ができる市民というところに変わっていてなければいけないのかなあという気がします。

次にガバメントからガバナンスへです。ガバメントは地方行政体ですね。ガバナンスというのは自己統治です。自分たちで自分たちのまちづくりを行っていくところへ変わっていかなければならないわけです。

(2)「まちづくり」って何?

次に、「まちづくり」って何ということですが、これもいろんな定義がありまして、いろんなことが言われていますが、私どもの研究室では、まちづくりと言うのはむしろ「まち育て」という概念の方が近いのではないかという議論をしています。これは、最近千葉大学を辞められた著名な延藤先生が言っておられます。自分たちの住んでいる地域の良いところを見つけてそこをいかに伸ばしていくのか、要するに子どもを育てることと同じじゃないだろうかということです。私たちが暮らし生活を営む環境を総合的に整えたり、改善していくのがまちづくりであると。私たちの生活や暮らしということですから、やはりいろんな複雑なまちづくりへ参画できる、一生懸命作られなければいけないということです。子どもでもそうですし、障害者の方でもそうですし、いろいろな人たちが自分たちの住んでいるまちをどうするのかということに参画していける仕組みを作らなければいけない。私どもの研究室ではまちづくり学習ということを一つの大きなテーマにしています。

2 協働とは何か

(1)  既成概念からの脱却

次に、協働とは何かということですが、先ほどのパラダイムシフトの中身のところでキーワードは協働といいました。ここ数年、協働というキーワードがいろんな場面で出てきます。その際、既成概念からの脱却が必要となります。協働と言うのはまちづくりに関わるいろいろな主体が、協力し合ってやっていこうよということです。行政、企業、市民、NPOなどいろいろな主体がまちづくりにそれぞれの立場なり得意とするところを生かしながら参画していくといった時に、それぞれがこれから大きく変わっていかなければならないですね。これまでの地方行政のままでいいのか、これまでのような営利企業のあり方でいいのか、これまでの市民の考え方でいのかというところをそれぞれ変えていかなければいけない。協働といったときのパートナーシップ、例えばこことここが協力しよといったときにあまりにも意識が乖離していれば手をつなぐことはできません。互いに手をつなげるように自己変革ということがすごく求められていると思います。行政の方は小泉改革の方でいろいろ動きがあるんですが、実際どこまで変わっていくのかということを私たちが良く見ていって意見を言ったりする必要があると思います。

企業の方の動きは明らかですね。CSR(Corporate Social Responsibility)ということで、企業の社会的責任を担っていかなければ、企業が淘汰されるという時代になってきています。CSRといえばSRI(Socially Responsible Investment)ということがあるのですが、例えば私たちが株を買うときにCSRをやっていない所の株は買わないという消費者サイドの責任があるわけです。環境に悪いこと、あまり良いことをやっていない企業の株は買わないとか、この企業は市民参加とかまちづくりにあまり関心がないから株は買わないとか、ということで企業が評価される時代になってきていることから企業がCSRを考える必要が生じているのです。

私は、市民がどのように変わっていくのかということがいちばん難しいのかなと思っています。自治体がこれからどう活性化していくのか、形をどう変えていくのか、NPO法人もすごく頑張っているところもあるのですが、いい加減なところもあります。それぞれがそれぞれの中で変革していく中で協働が可能となっていくのではないかと考えています。

資料にもありますように行政の方でもいろいろな指針を作ったりしています。例えば、東京都の「『協働の推進指針』策定への提言」、それから「市民活動との協働の進め方手引」とかいろんな自治体が方向性を検討しています。宇都宮市でもここ数年そういうことを検討しておられると思います。

次のページに新潟県の事例が出ています。いろいろな協働の手引きとかを見て見ますと、大体共通して言われている原則というのがあります。新潟の事例を見ていただきたいのですが、まず一番目が「対等な関係」であるということです。2番目に「相互理解」です。3番目に「相互自立」、4番目に「共通の目標」です。この辺から理解していただかなければ、なかなか協働というきれいな言葉を使うだけではうまくいかないと思います。

(2)なぜ、協働が必要なのか

では、なぜ協働が必要なのかということです。ここにまちづくりを担う三つのセクターが書いてありますが(行政、企業、市民)、以前は行政が中心で、企業も少しやるという二つのセクターでまちづくりをやっていました。これで何故まずいのかということですが、企業はCSRをやられていますが、企業の根本的なところは利益をあげることです。行政もいろいろやりたいけれども限界がある。基本的には、薄く広くサービスを提供するということが得意技であります。そういうときに、今の時代というのは社会的なニーズというものが沢山あって、要するに社会的ニーズの多様性というものが出てきていると思います。20年くらい前に千葉県のある市が「すぐやる課」というのを作りました。私はそれを聞いたときアホやなあと思ったのですが、何を勘違いしてるんだろうと思ったわけです。要は、行政がやらなくてもいいことをやってしまったのではないか、というかやらざるを得ないように市民がさせているではないか、なんでも陳情して行政にやってよという、何か市民の方で勘違いしている、そういう中で行政が肥大化していくことになっているわけです。

 そういうなかで、第三のセクターとして市民、NPOが出てきているわけです。NPOがなぜいま重要なのかというと、いろんな種類の社会サービスを提供するのにしがらみがないわけです。ただ、お金も無いですし、人もいないですから多品種少量生産なわけです。社会的ニーズの多様性ということを考えると、ある意味で多品種少量生産を得意とする営利企業が対応できるのではないか、もっと広く根本的な意味では行政が、行政は少品種大量生産ですが、薄く広く把握しカバーしていくことになるでしょう。たぶん、ここが中々できていない。それぞれの得意分野を合わせて協働し、全体の社会を良くしていこうということで、協働ということが非常に重要だろうというふうに考えています。

 NTTデータシステム科学研究所と杏林大学が共同で「情報化社会における地方自治のあり方」という研究を行いました。アンケート対象は地方自治体と地方議員とNPOで、資料で抜粋しているのが地方自治体の結果です。その結果によると、【今回の調査で回答のあった実に  52.2%の自治体で、住民の自発的な行政の参加や協働の事例がある。そして、今後も市民参加を「積極的に進めていくべき49.9%」、「徐々に進めていくべき49.2%」との数字を見ると、地方自治はすでに協働の時代へと駒を進めていると言っても過言ではないだろう。協働の事例がある自治体の、その内容をみると、まちづくりは八割以上。「その他」の回答には、「基本計画の策定」「都市計画マスタープランの策定」といった自治体の基本的な計画策定への住民参加も見られる。協働に行政が果たす役割については、1番が充分な情報公開、2番が情報共有の「場」の提供ということになっている。】

 「まちづくり条例における住民・市民参加の規定」という表を見ていただくと、これは『地域開発』という専門誌からコピーして取って来たものですが、この中で情報開示・共有の規定や住民参加についてどういう規定があるのかを整理したものです。これを見ていただくとわかりますように、まちづくり条例があるところではその中で住民参加ということをきちっと位置づけているところがかなりあることが分かります。この『地域開発』に、まちづくり条例を分析した結果として、参加型のまちづくりの条件・ポイントとして四つあげています。

 一つが「情報共有の保障」です。情報というのは非常に重要で、ある一方が情報を持っていて他方が持っていないというのは対等でなくなるわけです。

 二つ目が「市民としての参加」ということです。市民としての参加とはどういうことかというと、単に町内会とかそういうレベルで考えるのではなくて、自分が住んでいる市とか町とか村とか全体として考える必要があるということです。

 三つ目は「組織形成」です。住民の方たちがまちづくりに参画できる組織というものがやはり必要だということです。そういう組織づくりを条例の中でバックアップする必要があるということです。

 最後に四つ目として、市民の方たちが「まちづくりに参加していくための支援とか助成金」とかも必要だということです。

 このアンケート結果だけからみみますと、協働というのは地方自治行政のなかで浸透してきているのではないかなという感じがしないわけでもありません。

3 ガバメントからガバナンスへ

(1)地方自治体行政(ガバメント)から地域社会の自己統治(ガバナンス)へ

 これからは、地方自治体行政(ガバメント)から自己統治(ガバナンス)へ移らないといけないということです。

 下の方に4として、それぞれの資源を生かす役割分担をというのがあります。これは私が考えていることを図化したものです。一つは、情報の非対称性ということです。行政とか政府には情報が一杯あるけれども市民にはほとんどありませんでした。それで、情報公開法や条例などができて非対称性をなんとか突破しようという状況になってきました。情報の非対称性と中央政府による過度な制度設計によって、すごく歪んだまちづくりになってきました。上の方の図を見ていただくと、まずバランスの欠如があったんだろうと思うわけです。まちづくりのなかで地方自治体行政の役割が大きな部分を占めていて、市民とか市民活動組織とかが弱体化していったのかなと思うわけです。それを、これからは矢印の下のようにそれぞれの適正な役割分担の中でやっていく連携領域というものがあるのではないかと思います。行政がやるものは行政がやって、民間企業がやるものは企業がやって、市民がやるものは市民がやるというところを見極めて、自己統治(ガバナンス)ということでこれからは変わっていかなければというふうに感じています。

 ここに北国新聞という石川県の金沢に本社がある新聞の1月1日付社説の切り抜きがあります。私は実は金沢から単身赴任でして、正月に帰った時に読んだものです。2001年にあるシンクタンクが価値観国際比較というものを行いました。その調査結果によると、自分の国を帰属集団として重視する人の割合は、アメリカ70%、イギリス59%、ドイツ49%、フランス32%、日本29%でした。家族を帰属集団として重視するのかどうかという設問については、ドイツ99%、イギリス97%、フランス89%、アメリカ88%、そして日本は83%でした。この社説の中で、まちづくりということを考えるときに、自分たちのまちへの帰属意識というのをどのくらい持っているんだろうかという問題点が挙げられています。

 ここは皆さんにぜひ知っておいてほしいと思うことなのですが、岩手県の水沢市では子どもの居場所づくり事業ということで、子ども達が自分たちで居場所を作り自主管理運営しているところがあります。そこに聞き取り調査に入ったときに、そこの立ち上げにかかわったある男の子は、彼は現在高校を卒業して社会人ですが、彼が言うには、水沢という地域は地域のことに関わろうという子どもが比較的多いのではないかということでした。何故そうなのかということですが、彼が言ったのは自分たちの身近に目標とする大人が沢山いるんだということです。

 たぶん、これからの日本のまちづくりということを考えると、私たちが子どもや孫から見てああいう大人やおじいちゃんやおばあちゃんになりたいと思われるような人間になるのが、重要なのではないでしょうか。私どもの研究室では「まちづくり学習」の中で子ども達がまちづくりに参画するということを追及しているのですが、まちづくりの中に住民参加の仕組みを作るということは、私たち大人がどういうふうにまちづくりに関わっていくのかという視点を子どもたちに見せないと、子ども達はまちづくりに関心を持つことはできないと思います。大人たちが生き生きとまちづくりに取り組んでいる姿を子ども達に見せることによって、子ども達が自分たちの住んでいる地域への帰属意識、まちづくりへの関心が高まってくると思います。

4 いくつかの事例から学ぶ

(1)都市計画の側面から

1) 都市マスタープラン

 最初に、都市計画の側面からお話をさせていただきます。都市マスタープランですが、これは矢板市でも住民の方々が対案を出したりとかで取り組んでおられます。この都市マスタープランと言うのは、平成4年に都市計画法という法律が改正されまして、各自治体が市町村主導で都市計画に関する基本的な方針を作ってくださいというふうに変わりました。基本的な方針というのが都市マスタープランといわれるものです。その時に、都市計画法の中に住民の意思、住民の方々の声をきちっと反映させるようにということを位置付けたわけです。実は、これが大きな転換点で、これ以降各自治体で都市マスタープランを作る時には、住民参加の手法としてワークショップが一般的に行われるようになってきました。

 私も、民間のシンクタンクにいたときに市町村の都市マスタープランの作成に関わってきました。実際は、形だけの住民参加というものがやはりありますが、それは行政の方たちが悪いということではなくて、技術的にそういうことが難しかったりとかいろんなことがあるわけです。住民参加というのは技術的に本当に難しいと思ったりします。日本の都市マスタープランは功罪がありますが、良いポイントは住民参加ということを意識させたということです。行政の方たちと住民の方たちにまちづくりにとって住民参加というのは非常に重要なんだということを意識させました。それからワークショップという手法が広まったということは非常に良かったと思います。罪の部分ですが、マスタープランが実行されるかどうかということは実は評価されないんです。作ったら作ったでもう終わりで行政のほうは責任を問われない。ただし、私が留学していたアメリカのシアトル市とかは条項がありまして、都市マスタープランに書いてあることをシアトル市という行政が実行できないときは行政訴訟の対象になります。だから、シアトル市は都市マスタープランに書いてあることを必死になって実行しようとします。日本は都市マスタープランに書いてあっても、やらなくていいというかやらなくても行政訴訟の対象にはなりません。ですから、住民参加によって都市マスタープランを作るというのは非常に良いことなんですが、それがどういうふうに実行できるのかというところまで組み込まれていないというのが都市マスタープランの残念なところです。

2)都市計画の提案権

 次に、都市計画の提案権です。図3というのが抜粋で載せてあります。これは2002年の7月に建築基準法等の法律が一部改正になりまして、その中で都市計画の提案権というものが都市計画法の中に位置づけられました。一定の条件が整えば図の@にある「土地所有者、まちづくりNPO等による都市計画の提案」というものが可能になってきます。一定の条件というのは、土地所有者等の三分の二以上の同意とかいろいろありますが、少なくとも土地所有者だけでなくてNPO等も行政に対してこういうまちづくりをやるべきであるという提案をすることができるようになりました。その提案があったら、この図のAで「行政庁は提案に基づく都市計画の決定をする必要があるかどうかを判断」しなければならない。B「提案を踏まえて都市計画を決定する必要があると認めるとき」には公聴会等いろいろな都市計画決定を行う手続きを行って都市計画を決定する。要するに、土地所有者だけではなくて、例えば、最初にご紹介しました「とちぎ市民まちづくり研究所」が、峰地区のまちづくりということで土地所有者の方々の同意を得てまちづくりの提案をすれば、それに対して宇都宮市は検討の手続きをとらなければならないということです。以前は、これができませんでした。そういうわけで、都市計画の現場では、ここ数年で私たちが都市計画というものに関わっていける仕組みが出来てきているということです。

(2)個別事例

個別事例ということで、いろいろな地域のまちづくりへの住民参画についてお話ししたいと思います。

1)石川県

●財団法人いしかわまちづくりセンター

最初に、私がずっと関わっております石川県の事例です。財団法人いしかわまちづくりセンターというものがあります。このセンターが設立された経緯はいろいろありますが、要は市民参加を進めていこうということが大きな目的で設立されたものです。実際それがどこまでやれているのかということについては議論が残るところですが、財団法人いしかわまちづくりセンターというものを立ち上げて、市民参加というもの全県的に見渡していこうということでやっています。

●まちづくり大好き人間養成作戦事業 → 「まちづくり学習」

次に、まちづくり大好き人間養成作戦事業というものがあります。これは石川県の都市計画課が始めた事業です。9年くらい前ですが、私が金沢のシンクタンクにいた時に、ある日、石川県の都市計画課の職員の方から電話がありました。当時、石川県では、知事に県職員がプロポーザルを出し、知事の裁量で独自事業を立ち上げられる仕組みがありました。それで、何かやりたいので一緒に考えてくれないかという投げかけが、都市計画課の職員からあったわけです。その当時、私はまちづくり学習ということで、子供のまちづくりへの参画という市民活動を始めていました。それで、まちづくり学習、子供のまちづくりへの参画ということで何かやりませんかということで二人で考えてやったのが「まちづくり大好き人間養成作戦事業」です。これが知事の目に止まって4年間やりました。

資料中に、「地域の力」という本から抜粋したものがあります。ちょっと読み上げてみますと、「地域の力の源泉をなしているのは、人それぞれの幼少期から少年時代にかけての家庭生活をはじめ、自分が育った村や町、具体的な地域社会での骨身に染み込んだ現体験であるように思われてならない。いかにこういう時の幼児体験が大事であるか。その意味で具体的な地域というのは、いわゆる人間形成の上で持っている重要性には、計り知れないものがあると考えている」ということを増田さんが書いています。要は、先ほど水沢市の事例を述べましたが、子供達にもっと自分達が住んでいる地域のことを学習したり、具体的ないろいろな活動にかかわっていけるきっかけを大人がどう作っていけるのかということがすごく重要だと思います。

この「まちづくり大好き人間養成作戦事業」でいろんなことやってきましたが、一つやったのは、これもいろいろなところで紹介していますのでご存知の方もいるかと思いますが、小学校と中学校のまちづくり副読本というものを作りました。石川県ではこれを県内全ての小中学校に配りました。結果はどうかというと、ほとんど使われていませんでした。それで、これを使ったモデル授業を私がやったりとかして、今は徐々に使われ出しています。

2)金沢市

●明日の金沢の交通を考える市民会議

次に、金沢市の事例です。金沢市の事例では、明日の金沢の交通を考える市民会議というものを少し時間をかけて説明したと思います。どういう経緯でこれが立ち上がったのかということですが、私が宇都宮大学に赴任する1年ほど前に金沢市の交通政策課というところから、市民の方たちが金沢市の交通政策を考える検討会をやるので座長になってくれないかという投げかけがありました。その時に、私は交通政策課に条件を出しました。一つは、メンバーは公募の方を中心にしてくれ、もう一つは、公募のメンバーははいろんな年齢層、性別、職業から入ってくるようにしてほしいということです。実際集まってきた公募のメンバーは、高校生から60代までいろんな方々が入ってきました。もう一つの条件は、1年間で政策提言書を作るけれども、その後もメンバーの方たちが自主的に市民グループとして動けるような流れにしてほしいということでした。この三つの条件を付けて、その条件を市が呑んでれたので座長を受けました。

それでは具体的にどういうことをしたのかということですが、全てワークショップです。一カ月に1回の会は全てワークショップです。具体的な交通政策の中身を市民の方たちが学習したりとか、自主的に学習したりとかしながらワークショップを積み上げて政策提言書を作り上げ、金沢市長に提出しました。その後ですが、市民会議として、市民のグループですね、今でも活動しています。普通は市民グループというのはお金がないわけです。この時には金沢市がいろいろやってくれて、活動経費みたいなものを出してくれました。今は出ているかどうか分かりませんが、毎年、活動報告及び政策提言を出しています。自分たちで大きなシンポジウムを企画したり、科学的な根拠をもった調査をやったうえで政策提言を出しています。単なる思いつきではないわけです。これを毎年継続してやっているグループが立ち上がっているということです。

ここの事例で考えないといけないのは、今どこでも公募制委員会というのをやっています。すごくもったいないのは、そこで終わってしまうことです。1年間とかで提言を出してもその後どうつなげていくのかというところがないわけです。

●金沢市民芸術村

次に、金沢市民芸術村というのがあります。これも市民の方たちがまちづくりに参画するおもしろい事例です。金沢駅から歩いて10分ぐらいの所にあった紡績工場が撤退して、その跡地を金沢市が購入しました。そこに、金沢市が赤レンガの倉庫を改修して金沢市民芸術村というものを作りました。ここで何をやっているかというと、24時間365日オープンして市民と行政が共同で運営しています。名前にあるように市民の芸術発信、芸術創造の場所でもあるのですが、実はここの裏の目的というのは、「市民」を育てるということなんです。24時間365日オープンというと、備品などが壊されたりするんじゃないかと思いますが、ほとんどそういうことはありません。市民に任せることによって市民の責任感が育っているわけです。市民を育てるということでも、ここは上手い仕組みになっているという事例です。

●金沢まちづくり市民研究機構市民研究員

次に、金沢まちづくり市民研究機構市民研究員というのがあります。これは、最近、金沢市が進めているものですが、資料の中にホームページから抜粋したものが載せてあります。金沢まちづくり市民研究機構市民研究員募集要領というのがあります。テーマが九つありまして、そのテーマごとに担当ディレクターがいて、作文を書いて選ばれた市民の方たちが市民研究員として入って、各テーマについて研究して金沢市に提供していくという形でのまちづくりへの市民参画ということを金沢市ははじめています。これもすごくいいやり方ではないかと私は思っています。そのグループの一つの事例として「金沢箔をまちづくりに生かすためのデザイン研究」というのがあります。ディレクターが金沢美術工芸大学の黒川先生で、市民研究員8名が1年間かけて研究して、それを金沢市に政策提言をしていく。これなんかも、どこでもそれほどお金をかけなくて行政がやれる仕組みではないでしょうか。

3)新潟県

NPO法人都岐沙羅パートナーズセンター(新潟県村上市)

次に、新潟県の事例です。NPO法人都岐沙羅パートナーズセンターと言いまして、広域行政の市民参画の事例です。岩船広域圏とNPO法人が協働で市民のまちづくりへの参画の仕組みをやっているところです。お金の出所は広域行政圏なので新潟県とかから出たりしているわけですが、ここの面白いところは、広域行政圏とNPO法人だけではなくて地元の信用金庫が絡んでいるところです。何故、信用金庫が絡んでいるのかということですが、まちづくり市民グループ活動のなかでやはり必要なのはお金です。ここでは助成事業を行っているのですが、市民グループの事業が立ち上がって助成事業が終わった後に、村上信用金庫が市民活動に低利で融資をしますという仕組みです。そういうことで、岩船広域圏の中で色々なコミュニティービジネスというくくりのなかで、市民活動が起こっていかないかということを広域行政圏組合とNPO法人と金融機関の村上信用金庫の三者で共同して進めているという事例です。

4)長浜市の(株)黒壁(第三セクター)

次は、滋賀県長浜市の株式会社黒壁ですが、これはご存知の方も多いと思います。ここも機会があったらぜひ行って頂きたいと思います。人口約6万人の都市ですが、歴史的なことを話しますと、中心市街地がやはりひどく疲弊していました。そこで、地元の有志の方たち数人がこれは何とかしなければいけないということで、市民がリーダーシップを取って行政を動かしたんです。第三セクターの株式会社黒壁を作りました。出資者は長浜市とか民間企業とかいろいろあります。その中で、中心市街地のまちづくりということを行政と市民、民間企業の方たちが協働で進めているという事例です。年度別の来客数を見てみますと、平成元年度、黒壁が立ち上がった年ですが、数十万人、現在は数百万人になっています。それから、直営店の売り上げを見ると最近は若干落ち込んできていますがかなり伸びています。これは中心市街地のまちづくりとしては非常に有名な事例です。私は最初、確かに実績はあがっているけれども中心市街地だけに限定されていて周辺に効果が現れていないのではないかというふうに感じていましたが、最近行った時には、徐々に外側に広がっていて長浜市全体に良い効果が表れているというふうに感じています。黒壁だけでなくて「まちづくり役所」というNPO法人があります。ここは地元出身の女性の方が事務局長をやっていて、ものすごく面白い活動しています。そこにも行かれたらいいと思います。

5)世田谷まちづくりセンター(東京都世田谷区都市整備公社)

次に、世田谷まちづくりセンターというのがありますが、これは東京の世田谷区の事例です。ここはどういう組織なのかということですが、ある部分世田谷のまちづくりセンターは日本のまちづくりのワークショップにおいてはずっとリーダーシップをとってきたということが言えます。これは、「参加のデザイン道具箱」というワークショップの本ですが、これは第一巻で現在第四巻まで出ています。世田谷区のまちづくりセンターが出版している本です。これはまちづくりのワークショップをやる人間にとってはバイブルのようなものです。世田谷のまちづくりセンターは世田谷区都市整備公社の一部署です。これは公共ですが、公共、官がこういう事をやるのです。10年の歴史があります。全国からここの研修会に集まります。私も何度か行きました。こういう事をやる中で、世田谷区はまちづくりへの市民参画ということを仕掛けているわけです。ものすごく面白いのは、世田谷区まちづくりファンドというのがあります。ファンド、基金ですね。ここにいろんな方々からお金を寄付してもらっています。この基金で世田谷区のまちづくりを支援しています。このまちづくりファンドで助成を受けた市民グループは、まさに市民参画のまちづくりを進めています。要は、世田谷区はまちづくりセンターを中心にしていろんな仕掛けをやって、一つは市民グループが立ち上がって活動できる環境を作っています。その一つがまちづくりファンドであり、ファンドを使った助成金です。

具体的な事例でいいますと、例えば玉田まちづくりハウスとか、エコロジー住宅市民学校とか、コーポラティブ住宅をやる市民グループとかいろんなNPO法人が世田谷区では立ち上がっていて、そういう人たちがものすごい専門性を発揮していろんな分野でまちづくりのリーダーシップをとってきているということです。ただし、こういうことは簡単にできたわけではありません。長年かけてそういう土壌をセンターが中心になって作ってきたということがあります。

6)宮原まちづくり情報銀行(熊本県宮原町)

それからは6番目に、宮原まちづくり情報銀行です。資料はホームページから抜粋したものです。ここの活動紹介を読んでみますと、「宮原まちづくり情報銀行は、町の将来像を描く総合振興計画を策定していくにあたり、住民と行政が一体となって取り組むためのまちづくり拠点である。さまざまな住民参加によるまちづくり活動を推進していくとともに、全国へ向けた情報発信拠点としての役割を担っている。」ということが書いてあります。具体的にどういうことなのかということですが、資料の中で「初代のまちづくり情報銀行の担当となった甲斐さんと岩本さんの功績も大きい。この二人は、行政サービスのあり方や地域の活性化を研究していた五人の職員による自主グループに参加しており、まちづくり情報銀行の開設を千載一遇の機会とし、これまでの自分たちの考えを住民に語りかける中で、住民一人一人の思いを紡いでいくのであった。」というふうに書いてあります。

この宮原まちづくり銀行と言うのは、地元の銀行が空いていた建物を借りて、宮原町役場の総合計画とかを担当する企画部門が町役場から出て、空いた建物の中に部署ごと移って、そこに市民の方たち集まって、みんなで総合計画を作っていきましょうということをやったわけです。その拠点を、宮原町づくり情報銀行というネーミングにしたわけです。まさに、まちづくりにおける住民参画の拠点作りということをやったわけです。ネーミングもシャレている。「お金のいらない情報銀行へいらっしゃい」とか、一般の市民の方も入りやすい工夫をしています。「扱うのはお金ではなく、みんなの意見や情報」みんなのまちづくりへの思いや情報をくださいということです。そのなかでみんなで宮原町のまちづくりをやっていきましょうということでやっているわけです。ここのしくみで面白いのは、この宮原まちづくり情報銀行が本店で、宮原町の14地区に情報銀行の支店があるわけです。各地区ごとに本店から助成金を出しますので、それを原資として各地区でまちづくりプランを作って、まちづくりをやって下さいということにしています。従来ですと、14地区公平に、例えば50万なら50万出しますよね、ここではそうではなくて事業計画とか実践活動が評価されてちゃんとやっていなところはお金が削られる、一生懸命やっているところにはきちんと手当しましょうというふうになっています。こういうことは、なかなか行政としてはやりづらいところなんですが宮原町ではやっているわけです。要するに競争原理を入れているわけです。

7)栃木県内

それでは、栃木県内の私が関わった事例を紹介します。

@大平まち男女共同参画プラン策定

最初に、大平町男女共同参画プランの策定というのがあります。どういう形で大平町男女共同参画プランというのが始まったかというと、仕組みはそんなに複雑なものではありません。まず、検討委員会というのがあります。検討委員会のメンバーは男女共同参画に関する市民グループのメンバーとか公募委員とかが入りました。それだけで検討するというのは通常のやり方ですので、私どもの研究室で大平町の担当の方に提案したのは、協働ワーキングを立ち上げましょうということです。メンバーはここでも公募委員をたくさん入れました。それから検討委員会の委員にも入ってもらいました。それから町職員の方にも各セクションの若手の方に入ってもらいました。それから議員さんにも入ってもらいました。男女共同参画に関する市民グループの方にも入ってもらいました。総勢で20人から30人のワーキンググループを作りました。

そして、十数回のワーキング検討会を行いました。全部がワークショップという手法で進めまして、それ以外にも部門別に自主的に集まっていただいて検討を進めました。1回のワークショップが4時間という時もありました。かなりの時間と労力を費やしてみなさん議論されて、ここですごいのは男女共同参画プランの中身もこの方達が書いていることです。それを町が承認してくれたんです。で、今どうなっているかといいますと、男女共同参画を推進する市民グループがこの中から新しく立ち上がって、この計画で言っていることを行政と協働で進めますということになっています。単に計画を作って終わりではない、それをどういうふうに行動に移していくのかという枠組みまで考えてやらないといけないと思います。ただし、これだけのことをやるのはかなりしんどいです。参加された方たちが一番しんどかったと思います。もの凄く時間を費やして会合をやって、中身まで書いたわけです。もう一つ、町役場の担当者の方たちもしんどかったと思います。本当に一生懸命やっていただいて、皆さんが考えたことを自分たちでプランに書いて、それを今進めている市民グループが立ち上がって行政といっしょにやっているということになっています。

A栃木市地域福祉計画策定

次の事例は、栃木市地域福祉計画ですが、これは今ちょうど検討中の計画です。公募委員といろいろな団体の代表の委員とで70名くらいの大きな委員会です。これも毎回ワークショップでやっています。これも狙っているのは、大平町と同じように計画推進のための市民グループが立ち上がり、行政と協働での取り組みに発展することです。しかし、ここはメンバーの方たちが70名もいらっしゃるということで、正直言ってかなり運営は難しいです。それから、公募委員の方と各種団体の代表の委員の方との温度差があるように感じます。その辺の意識のズレをどうするのかということが課題になっています。栃木市の方は来年度に地域福祉計画を策定して、再来年度から大平町のように市民グループが立ち上がって実践していくような形に持っていけるように、研究室と栃木市の方でやっているところです。

B高根沢町次世代育成支援行動計画策定

3番目の高根沢町次世代育成支援行動計画策定は今年度から始まっています。来年度までに策定するということです。自治体から私の研究室へ相談に来られるのですが、私どもの研究室のスタンスは、要するに市民の方たちが主体のまちづくりをやって行ける仕組みの検討会でなければ引き受けませんよということです。それが嫌なところは断っています。高根沢町の方は公募委員と一般の委員が合わせて30名くらいで進めていまして、ここでも毎回ワークショップという手法で検討を進めています。見通しとしては、新しい市民グループが立ち上がって次世代育成支援行動計画の実践をするところまで持っていきたいと思っています。

C宇都宮まちづくり市民会議 「夢おこし、宮おこし 未来へつなぐ62人の夢」

4番目のうつのみやまちづくり市民会議は、これは既にもう終わったものです。これは「夢おこし、宮おこし 未来へつなぐ62人の夢」という提言集を1年間かけて、平成13年度にまとめました。私のように学識経験者ということで入っている者もいますが、大半は公募の委員の方々です。六つの部門に分かれて、私は都市自治という部門だったんですが、かなりの議論をやって、これも中身の大半は公募の委員が書きました。これは、宇都宮市の総合計画見直しのための材料にしたいということで始まったものです。この宇都宮市の事例をなぜ持ってきたかというと、やり方がまずかった事例として持ってきました。何故かといいますと、作って出しましたと言うところで切れているんです。作って出した後1年ぐらいしてから、いきなり封書で「新しい総合計画ができましたので有難うございました。」で終わりです。62人集まって一生懸命やったことがどういうふうに生かされたのかという過程が一切なくて、どうしてそういうところに持っていく仕組みにつながらなかったのか、残念な事例です。

D宇都宮まちづくり推進機構

それで宇都宮市の汚名ばん回ではありませんが、これも宇都宮市の事例で、5番目に宇都宮まちづくり推進機構というのがあります。メンバーの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは宇都宮市と宇都宮市の事業所、それから市民が会員となって会費を出します。するとこの推進機構のメンバーになれて自分が関心のあるテーマの部門に入って、主に中心市街地のまちづくりプランをやっていこうという仕組みです。私は六つある部会のうちの、宮づくり探偵団部会の部会長をしています。このやり方というのはちょっと珍しいやり方と思っていますが、うまく回ればすごくいいかなと思っています。これは、昨年度宮づくり探偵団部会がまとめた活動報告書です。例えば、ライトアップ部会とかいろいろあって、テーマを決めて中心市街地をよくするためにはどうしたらいいか研究したり、行動を起こしたりしています。どういう部分で難しいかといいますと、まちづくり推進機構自体に内在する難しさがあると思っています。まちづくり推進機構にはプロパーの方はいません。推進機構からお金をもらって飯を食っているというプロの職員がいません。職員の方は宇都宮市と商工会議所から出向になっている人で2、3年で異動となります。パートの事務の方はいますが、要するに2、3年で担当者はいなくなりますから、本腰が入らないんです。今回私たちが推進機構に提案しようと思ったのは、推進機構をNPO法人にしたらどうかということです。NPO法人にして民間でも何処でも良いからまちづくりを引っ張っていって、その人たちが力を発揮してやっていくようにしなきゃだめだと。NPO法人にすることが全ての解決策ではないと思いますが、そういう方向性もあるかなと思っています。

5 まとめ

要するに、まちづくりにおける住民参画の仕組みづくりというのは、いろんなところでいろんなことをやっているということです。石川県の事例もありましたし、世田谷区のセンターとか、それからNPO法人が主体的に仕掛けているところもあるし、栃木県内でも大平町とかやっている事例はあるということです。

私がこういういろんな仕事に関わっていて思うことは、市民参画には効果と課題があるということです。

どういう効果があるのかというと、一つは、コミットメント効果です。要するに市民自らが主体となっていくということです。誰かに言われてやっているということではなくて、自分たちが本当に主体となって考えて行動することによって、自分たちの地域がよくなっていくことを実感ができるということが大きいと思います。

それから二点目ですが、大平町が良い例だと思いますが、市民にとって分かりやすいプランができます。市民の方たちが書いていますから、自分たちが分かりやすい言葉で書きます。分かりやすい計画になるわけです。ただし、分かりやすい計画ということと、その計画が具体的かということとは違います。大平町のプランの時も、苦労したのは、わかりやすいんですけれども、その計画に具体性と緻密さがあるのかというと、行政の方たちがきちんと書くのとはやはり違います。だからその辺のところはどちらをとるのかバランスの問題でもあるわけです。 

3番目は、地域の独自性を明確にすることができるかなという気がします。要するに表紙だけ変えればどこでも通用するような計画ではなくて、そこに住んでいる方たちの思いとか常日頃感じている課題とかからでてくるわけですから、そこには独自性がでてきます。

それから4点目ですが、行政と市民の方たちとのうまい関係が出てくる、一緒にやっていこうよという関係ができてくるという気がします。そういう市民参加の効果があると思います。

一方で、課題です。大平町のところで何度も言いましたが、こういうやり方というのは非常にしんどいです。これだけのことに付き合ってくれる市民の方が集まってくれるかどうか、それとある部分しんどいですから、息切れしてしまうということもあります。それと、これは行政内部の問題かもしれませんが、こういう形で進め方というのは、まだ一般的ではありませんから、行政内部で理解を得るというのは担当される職員の方々は苦労される。

でも、いろんな課題はありますが、私は効果ということを考えますと市民参加のまちづくりというのはこれからもきちんと進めていって、最初に言いましたようにまちづくりのいろいろな課題をクリアーしていくことが重要だと思っています。資料の最後に、下野新聞の抜粋で大平町の記事を載せておきましたのでみなさん、あとで読んでいただきたいと思います。


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