第1期とちぎ自治講座 第3回講義

「地方財政危機と地方財政改革」

開催日:2003年1月18日(土)
開催場所:宇都宮市文化会館4階第2会議室
講師: 中央大学経済学部  関野 満夫 数授


目 次

はじめに
T 地方財政赤字と地方財政システムの危機
U 日本型財政システムの財政赤字形成メカニズム
V 財政システム改革の論理と背景
W 税源委譲の検討
X 地方財政合理化と市町村合併
Y 財政システム改革の展望



はじめに
  • 経済と社会の危機・機能不全が国と地方の財政赤字を招いており、財政システムの改革が求められている。
  • 改革をめぐる対立点は、「横造改革」か「抵抗勢力」かといわれているが、真の対立点は旧来型の集権的財政システムに対する「新自由主義的改革」か「連帯・福祉国家型改革」かであり、地方財政にもそのことがあてはまる。


T 地方財政赤字と地方財政システムの危機

日本の地方財政はフローとストックの二つの面から赤字が多くなっている。

1)フロー:毎年の財政収支の赤字が大きくなってきている。

  • 原因は大幅な地方財源不足 政府の地方財政計画で毎年財源不足が続いている。平成6年以降急激に拡大し、平成14年度は14兆円の不足となっている。
  • 財源不足の手当のため地方交付税の増額と地方債の増発をおこなってきた。
2)ストック:大きな地方財政借入金残高
  • 平成5年から急激に増えて平成14年には195兆円に達している。借入金残高のGDP に占める割合は、平成3年に14.7%で、それまでは余り変化がなかったが平成14年には39.2%になっている。
こういう地方財政の赤字というのは日本の特徴で先進諸国のなかではみられない。

3)財政赤字が個別自治体の財政指標の悪化を招いている。(全地方団体合計) 

平成3年度   平成12年度経常収支比率
71.3% 86.4%公債比負担比率
10.8% 17.7%起債制限比率
9.0% 11.3%

4)集権的な国と地方の財政関係のなかで国の関与を受けながら地方の財政赤字が拡大してきた。

@国と地方の税財源配分

  • 平成12年度、国民の租税の総額は83.3兆円うち国税は52.7兆円(60%)、地方税は35.5兆円(40%)で歳入は国3、地方2の割合なっている。国から地方には地方交付税や国庫支出金という移転がおこなわれ歳出では国63.0兆円(40%)、地方96.1兆円(60%)で国2、地方3と割合が逆転する。
 A国庫支出金、地方債
  • この逆転する過程で、国庫支出金や地方交付税を通して国が地方財政をコントロールしてきた。さらに、地方債もこれまでは自治大臣の許可を通してコントロールされてきた。
 B地方財政計画と地方交付税
  • 地方財政計画は地方交付税法で作成が義務付けられているが、地方交付税や補助金、地方債の発行許可など国が地方財政全体を管理するために、国の予算とともに作成している。

U 日本型財政システムの財政赤字形成メカニズム

1)日本の財政赤字の特殊性、国際的特徴 

 @公債依存の変動性、国と地方の連動

  • 公債依存度が、1970年代から90年代にかけて先進5か国は10%から20%で落ち着いているが、日本だけが79年の34.7%、91年の9.5%、00年の42.1%と変動が大きい。これは、国家財政だけでなく地方財政も連動してそうである。
 A「小さな政府」の「大きな財政赤字」
  • 社会保障費も含めたGDPに占める政府支出の割合は、日本37.4%、スウェーデン63.6%、フランス52.1%、ドイツ47.8%、イギリス44.1%、アメリカ33.1%でOECD24か国でアメリカと最下位を争っている。

2)財政赤字の構造的背景 

 @租税負担率の低下

  • GDPに対する租税・社会保障負担の比率、日本は90年21.4%→00年17.2%、4%下がった。アメリカ19.8%→22.7%、イギリス30.7%→31.2%、フランス24.0%→29.0%など他の先進国は上がるか、現状維持だった。下げ幅が大きいのが国税(85年11.9%→10.3%、地方税は5.5%→6.9%)
  • 歳出が景気対策等で増えていくのに租税収入が減ったため、国債等で赤字を補ってきた。
  • 何故、租税負担率が低下してきたか → 景気の悪化、所得税、法人税の減税政策等 
  • 政治的な要因は何故か 未成熟な「福祉国家」であるため増税(租税負担率上昇)への国民的合意を形成することが難しい。
 A経済政策的には「小さな政府」であるがゆえに日本はビルトイン・スタビライザー機能が相対的に弱い。GDPが1%変化した際の政府収支の変化率が先進20か国平均で0.49%に対し日本は0.26%となっている。景気に対する財政の安定化機能は先進国のなかで日本は半分くらいしかない。
  • 背景としての「大きな公共事業」と「大きな地方財政」
 B「事業実施団体」「エージェンシー」と化している地方自治体 C国と地方の「財政錯覚」
  • 国:建設国債(公共事業補助金の財源)、赤字国債、さらに借換債
  • 地方:補助金、地方交付税、地方債(元利償還の地方交付税措置)

等負担がないような錯覚のもとで財政赤字が増大する構造になった。

V 財政システム改革の論理と背景

1)90年代以降、集権的財政システムの限界が明らかになってきた

 @世界的潮流として分権化の時代

  • 経済グローバル化、国民国家の限界
  • 地域レベルの経済産業政策、福祉政策、環境政策の重要性が増す
  • 分権 機関委任事務の廃止
 A財政肥大化と財政赤字
  • 90年代EU・アメリカの財政赤字と財政再建過程
  • 日本の異常な財政赤字・サステイナビリティヘの疑問

2)分権化を求める2つの流れ

 @新自由主義的アプローチ 

  • 「小さな政府」、市場の効率性を絶対視する。
  • 中央政府関与の縮小、地方自治体の白律・自助、「一定」の税源賦与
  • 自治体リストラ、市町対合併、地方交付税の縮小・解体、地方・農山村の切捨て
 A連帯・福祉国家的アプローチ
  • 国民生活の安定、公正な社会を支える効率的な「大きな」政府
  • 中央集権的な財政システム批判、地方税源の充実
  • 地方交付税制度:従来の集権的、浪費的使い方を批判しながら、本来の機能を評価し、都市と農村の連帯を進める。

国から地方への税源委壌の必要性では濃淡の差はあるが共通している。 

3)財政システム改革と税源委譲 

 @租税負担と租税配分 ―OECD統計から―

  • 国民所得に占める租税+社会保障負担率、日本は36%でアメリカと並んで低い。
    • 日本は国税と地方税に特徴がある。国税負担率は13%で他国と比べて低いが、地方税負担率は9%で他国(単一国家)と比べても結構多くなっている。
    • 日本は歳出の62%は地方だが、税収は41%しかなく、ギャップが大きい。スウェーデンなどは歳出41%、税収41%となっている。
    • 国と地方の租税配分横成 北欧は、地方はほとんど個人所得税が中心、アメリカ、カナダは、地方税は不動産(固定資産)税が中心、日本は所得税、固定資産税、その他という混合型という特徴がある。
 A望ましい地方税配分とは
  • 政府機能基準から

    国:所得再配分機能、経済安定機能、→所得税、法人税、相続税
    地方:資源の最適配分機能(公共サービス)→固定資産税、住民税

  • 課税対象の移動性から
   金融所得、法人所得等逃げ足が早いものは国税土地とか人とか移動ができないものは地方税
  • 地方政府の行政サービスから
かつては治安維持、消防、公共事業が中心で地域に財産を持っている人が利益を得る

→不動産税が中心近年は福祉、教育、対人サービスが多くなると住民全体が利益を得る      →消費課税、所得課税

  • 地方税には安定性、普遍性、応益性が求められる
 B委譲モデル
  • 国税:地方税4:6から5:5へ
  • 所得税委譲 5〜13%の住民税から10%の比例住民税へ
  • 消費税(国4%、地方1%)の地方配分増加

W 税源委譲の検討

1)総務省片山試案(02年5月)

  • 国税:地方税を1:1
  • 所得税(3兆円、個人住民税を10%の比例税率化)
消費税(2.5兆円、国:地方4:1を3:2に)  計5.5兆円委譲
  • 地方交付税は当面「維持」
  • 国庫支出金は5.5兆円削減
2)経済同友会案(02年10月)‥・新自由主義的アプローチ
  • 所得税、消費税13兆円委譲
  • 地方交付税の13兆円削減、将来的に残り8兆円分も「廃止」
  • 国庫支出金2割、3兆円削滅
  • 県レベルでの水平的財政調整(税収力のみ)
  • 地方歳出の11%(11兆円)カット、自治体リストラ
3)(参考)東京都税調案(00年11月)
  • 所得税、消費税、たばこ税7.2兆円委譲
  • 投資的経費(基準財政需要額)2.7兆円削滅
  • 水平的財政調整の原則的拒否

4)税源委譲の効果と限界

 @『経済財政白書2001年版』より(地方財政改革シミュレーション)  

歳入構造の変化
  地方税 交付税 国庫支出金 地方債 その他
現 状 34% 20% 16% 13% 18%
改革後 41% 15% 13% 12% 18%

          

  • 中規模以上の都市での財政力上昇、不交付団体増加
  • 農山村、小規模市町村の税収は微増、不交付団体は増えない

    関東、近畿、中部では不交付団体増加するが、それ以外の地域ではほとんど増えない  

 A『同友会シュミレーション』より

  • 地方交付税13兆円カット、将来的廃止、補助金3割カット
  • 農村県の税収大幅減少、東京都の一方的税収拡大

5)検討すべき課題

委譲後でも地方交付税の必要性(財源保障)は残る。ところが、政府方針は格差是正機能のみ残し財源保障機能(補助金の裏財源、基準財政需要額の保障)は廃止する。

  • 水平的財政調整の是非、可能性(税源委譲による自治体間の格差、不交付団体に対する対処)

実際にはなかなか委譲は進まなく、最もやりやすい地方財政の合理化と市町村合併が進められている。

X 地方財政合理化と市町村合併

1)自治体の自律・自助

  • 受益と負担、競争的自治
2)自治体リストラ、市場メカニズムの導入
  • ニューパブリックマネジメント イギリス系の国々で始まった企業的管理システムを行政サービスに導入して行政の効率化を図る
  • 地方債のIR
  • バランスシートの作成
3)市町村合併の強権的遂行
  • 地方交付税によるアメとムチ
  • 合併算定替−交付税総額を保障するものではない
  • 合併特例債(公共事業・公共施設)の地方交付税措置
  • 小規模市町村の基準財政需要額削減(補正カット)⇒地方交付税削減

Y 財政システム改革の展望

1)日本の将来租税負担のあり方

  • 重大な政治課題 消費税の増税の可能性
  • 先進国の中では日本は租税負担率低いので、将来的に国民の合意を得て増税の余地ある。
  • ただし、当面は、景気対策もあって税制中立(地方に税源委譲した分、交付税を減らす)
2)公共事業肥大財政から福祉型財政へ
  • 増税には国民の合意が必要、そのためには国民が納得する財政でなければならない。
3)都市と農村の連帯、農村の内発的発展
  • 公共事業の無駄を無くすのは当然だが、経済だけでなく環境、文化を含めて農村や山村の意義を考えていく必要がある。

4)税源委壌による分権型財政システムヘ


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