第1期とちぎ自治講座 第2回講義
「市町村合併と分権・自治」
開催日:2002年12月14日(土)
開催場所:宇都宮大学農学部南棟4階3401教室
講師:福島大学行政社会学部 荒 木 田 岳 助教授
12月14日(土)午後2時から宇都宮大学において、とちぎ自治講座第2回「市町村合併と分権・自治」が開催されました。
講師は、福島大学行政社会学部荒木田岳助教授で、江戸時代の町、村から説き起こした、わかりやすい市町村合併問題の話でした。栃木県でも最もホットな話題だけに、講義の後も熱心な意見交換が行われました。
目次
はじめに
T.市町村合併とは何か
U.なぜ今市町村合併なのか
V.地方分権と市町村合併
X.合併のメリット・デメリット
Z.市町村合併と将来の地方行政を展望して
おわりに
はじめに
◆栃木県と2つの縁:「佐野の合併問題」と「戸籍法施行過程」で栃木県を調査
◆自己紹介に代えて〜なぜ市町村合併を研究しているのか?
日本ほど大規模かつ頻繁に行政区画再編(市町村合併)の行われた国はない。
なぜ、日本では市町村合併が頻繁に実施されるのか?
◆本報告の前提:市町村合併一般の是非については論じられない
「結婚式」の論理と合併問題…具体的な相手がいてこそ良いか悪いかの議論ができる。
T.市町村合併とは何か
◆「市町村合併」の定義:「市町村の合併」とは、二以上の市町村の区域の全部若しくは一部をもつて市町村を置き、又は市町村の区域の全部若しくは一部を他の市町村に編入することで市町村の数の減少を伴うもの…(「市町村の合併の特例に関する法律」第2条)
◆「新設合併」と「編入合併」:説明→議員の在任特例などが異なる。有利になるように使われる。
◆町村合併の起こり
・市町村とは何か、単なる行政区画なのか。
・江戸時代 町:道路の両側50戸くらい(隣組、今の町内会)
村:ピンからキリまであった。九州は大きかった。
長崎 300戸/1村 会津 30戸/1村 全国平均で85戸
領有している土地が村の区域であったため飛び地が多かった。
・明治初年(一般的にいわれている明治22年ではない)
→「町とは何か・村とは何か?」地域をどう支配するかが問われる中で町村合併が出現
@「村」の性格の一元化 村にも序列・上下関係があった(親村、枝村、被差別部落・・・)
A支配錯雑(飛び地)の整理
B村の単位で全ての行政をやろうとした。画一的「行政」主体化
ドイツは課題に応じて事務処理の組み合わせが違う(特別行政区画)
日本はあらゆる事務を全て同一の区域で処理する(一般行政区画)。そのため、新しい行政課題が出現するたびに町村合併が行われてきた。
◆合併のたびに問題になる論点:町村は、住民自治の単位なのか、行政区画なのか?
→結論は出されていないが、事実としては、「行政区画」として進行している
◆その後の(市)町村合併の現状… 表1参照
U.なぜ、今、市町村合併なのか
◆市町村合併急に出てきた問題ではない。「市町村の合併の特例に関する法律」は、1965年に10年間の時限立法として成立して以来、3回の期限延長。「昭和30年合併」まで遡及すれば、実にここ50年間、合併論は進行し続けてきている。今回の期限が2005年3月31日ということだけで、期限に深い意味はない。
◆今何故合併が必要か、総務省の説明
@モータリゼーションの進展を背景にした「生活圏」の拡大、
はたしてそうか、(表2)各国の自動車数の増加・「生活圏」の拡大と市町村数に相関関係はない。
A地方分権の進展(後で)
B少子高齢化の進行
はたしてそうか、(表3)高齢化率が増加しても就業率(働く人の比率は)に変化はない。
地域社会の担い手が減るというが、むしろ高齢の人が担い手になっている。
C新たな行政需要の発生
はたしてそうか、ごみ処理、高齢化介護 → 既に広域(連合)処理で対応している。
D厳しい財政状況(後で)
◆ここ数年の変化 急激に自治省〜総務省の合併方途が展開している。
ex.特例法改正(99.7)、
事務次官通達「市町村の合併の推進についての指針の策定について」(99.8)、
「市町村の合併の推進についての要綱」、合併特例法改正案国会提出・市町村合併支援本部政府内に設置・「21世紀の市町村合併を考える国民協議会」(民間)設置(01.3) などなど
@議会対策 議員数減るから議員に任せられない。そのため、住民投票、直接請求等の制度を導入
(ex.いわき市 議員数 333人→42人)
A財政措置 人口増えると地方交付税減る。10年間の交付税算定の特例
◆急速な展開の背景にあるもの
@地方分権論
「経済財政諮問会議 諮問第1号に対する答申」など(資料省略)
A財政問題
693兆円の借金、本質的には、これを減らすために市町村合併が促進されている。
交付税を減らしたくらいで、借金が減らせるのは。詳細は次回で。
V.地方分権と市町村合併
◆合併によって「地方分権体制」になるのか?「分権」の定義・内容による
@)1889年、明治の大合併(市制町村制施行の前提)ときに初めて「地方分権」が使われた。
ここでの「分権・自治」は、政府の煩雑な事務を地方にやらせる。そのための地方自治というのは国民の義務であるといわれた。地方の仕事なんだから自分たちのお金でやりなさいともいわれた。政府は現在まで一貫してこういっている。
cf.「sollen(べき)としての自治」真の住民自治
「sein(である)としての自治」政府がいっている自治
A)両税委譲問題
地租、営業税を地方に移譲しよう(昭和2年)。結末は失敗だった。豊かな地域と貧しい地域の格差が広がる恐れから、貴族院の反対で実現せず。政府の云う自治・分権で格差が広がる。歴史は格差是正を求めた。昭和15年の財政調整制度に繋がっていった。
小括:合併と「自治」「地方分権」は不可分の関係であろうが、「自治」「地方分権」の中身こそが重要。
→2つの「自治」と、2つの「地方分権」
X.合併のメリット、デメリット
◆合併のメリット(総務省の公式見解)
@住民の利便性の向上
Aサービスの高度化・多様化
B重点的な投資による基盤整備の推進
C広域的観点に立ったまちづくりと施策展開
D行財政の効率化
E地域のイメージアップと総合的な活力の強化
◆合併のデメリット(「シンクタンク福島」の調査)
@中心部と周縁部の地域格差が発生
A周縁部で行政サービスが低下
B小規模地区(旧町村)の意見が行政に反映されなくなる
C歴史・文化、地域への連帯感が薄れる
D関係町村間の行政サービス・財政水準の格差調整が困難
◆具体的なデーターを見ることが必要。
市町村合併がもたらしたもの(「先進」自治体=いわき市を例に)
・合併後、市全体では人口増えているが、多くの地区で人口減っている。
・職員の数は余り減っていない。本庁は当初21.5%、現在は約9割
・バスの国庫補助「広域路線」のみ対象に「生活路線」(市域のみ)は廃止 38路線が2路線になった。
◆合併が進行すれば、確かに「無医村」や「過疎地」は外見上なくなっていくかも知れない。
しかし、その内実が問題なのではないか。各地の合併後の状況にてらせば、言われるほど市町村合併は「バラ色」ではない。
そもそも、日本中のほとんどの自治体は合併によってできている。これが「バラ色」ならこんな問題にならない。
Z.市町村合併と将来の地方行政を展望して
◆町村合併に付随する問題
・大正期の郡制廃止問題
・市町村合併が進むと道州制問題に発展してくる。
◆ふたたび、「なぜ、今、合併か?」
@右肩上がりの経済成長が終焉したという認識
A新しい意味での「自由主義」を選択するということ → 弱肉強食の強制
B2つの「東京問題」への対応
・東京そのものをどうするか
・分権で考える(首都機能移転等)
◆望ましい地方政府のかたち
地域が抱える課題は何か?それを処理・解決するために、地方政府はいかなるかたちが望ましいか?
各自の課題として問題提起したい
地域・自治をトータルに考える。(「とちぎ地域・自治研究所」良い名称)
◆「行政」の責任
・行政は誰のためにあるのか?〜「行政」を必要とする人々
本当に困った人のためにどうするかを形として残していくことが必要。
◆将来の社会イメージとの関係でどんな社会を作っていきたいか。どんな地域をつくっていきたいか。
おわりに
◆結論:市町村合併問題は市町村合併の問題ではない
◆財政赤字の現状について→これ自体への対応を考える必要がある(次回の講座で)
◆ローカル・アイデンティティの脆弱性と住民の「記憶」〜東蒲原郡の例
◆合併の是非について住民が考えなければならないという世の中の流れが危険であると思う。
アンケートとっても住民は答えられない。合併の歴史というのは実は調べてみると政争の歴史でもある。リコールや投石など、喧嘩して地域に分断をまねている。
せめて、合併の問題を考えなければならないのなら、地域の将来をみんなが仲良く考えられる仕組みを考えていただけたらと思っている。
|