21世紀を地方の時代に!
2004年3月28日に「第一回とちぎ地域・自治フォーラム」開かれる

“構造改革とこれからの地域・自治を考える

二宮厚美先生の「基調講演」と5つの分科会で活発な発表、交流がはずむ !

去る3月28日、とちぎ地域・自治研究所は、栃木県壬生町で念願の「第一回とちぎ地・自治フォーラム」を開催し、議員、研究者、自治体職員、各分野の住民組織と市民の方、約80人が参加されました。このフォーラムは、自治研(全国)の自治体学校の栃木版として、とちぎ地域・自治研究所が設立の当初からフォーラムの開催を年間の事業の大きな一つとして考えていたもので、念願の開催が出来、今後の研究所の活動の幅と厚みを加えた「今回の成功」と言えます。


-----------------(一)開会と基調講演(午前中) -----------------

 笠原義人理事長の開会あいさつの後、開催地、地元の壬生町町長清水英世氏が、壬生町の特色とまちづくりの抱負を語り、併せて、現在の政府による押し付け合併ではなく、壬生町が壬生町の財政状況を踏まえ今後36年間のシミュレーションをしても10%の人件費削減で何とかやっていけること、壬生町の歴史を守り、住民の暮らしが宇都宮市との合併で強化される見通しが立たないことを揚げ、合併に慎重であることが語られました。

 基調講演神戸大教授の二宮厚美先生が、「構造改革とこれからの地域・自治を考える」と題し、「構造改革の性格」と「地域自治に課せられた課題」の二つの視点から講演がありました。

 構造改革では、今日の構造改革が、90年代半ばの橋本内閣時代から始まり、その背景は、90年代半ばの日本経済の構造転換によるもので、これまでの「国内生産国外輸出の輸出中心の」体制から日本の大企業が多国籍企業化したことによる。経団連の奥田会長ビジョンの「メイドジャパン」から「メイドバイジャパン」に代表されるように、日本企業の多国籍化がその特徴です。今や、海外生産は140兆円にのぼり、日本のGDP500兆円の3分の一に当たること、そして、海外で雇用は340万人となり、日本の失業者数と同数となることが紹介されました。そして、その特徴は、所得の再配分、農村から都市へなど、市町村合併も自治体のリストラであり、1万人以下の自治体をなくし、最終的には道州制に道を開く大改悪であること。そして課題として、自治体は憲法の下での共同性、権利性、公平性が絶対保障されなければならないと強調されました。

-----------------(二)5つの分科会(午後) -----------------

午後は、5つの分科会がおこなわれ、各分科会とも参加者から活発な報告と発言相次ぎ、時間が足りないほどでした。

@保育と子育て−どうなるこれからの保育所

○出席者 宇都宮市公立保育所の保育士、児童福祉施設の保育士、栃木市市政勉強会会員等10数名
○分科会の具体的内容

1)県内の保育所の状況について

県内の保育所の公私割合は、全国の55%に対し、66%と公立保育所の率が高く公立保育所の果たす役割は大きい。しかし、近年、公立保育所の統廃合、民営化が進む状況となっており、公立保育所が減り、民間保育所が増え、10年前の公私割合、約73%から減じてきている。各自治体は、財政難を背景に、公立保育所と民間保育所を、コスト面で比較しており、公務員としての保育士の人件費が問題視されており、臨時職員の配置や民営化への移行に拍車をかけている。

また、県内の保育所入所率(現員/定員)は、平成15年度当初には、約102%と年度当初から定員を超えた状況となっている。年度途中の入所児童を考えると過密な受入となっている。10年前の入所率は、約78%である。県内では、少子化傾向の中で、幼稚園の利用児童が微減なのに対し、保育所入所者は増加傾向にあり、10年前136%にあたる約26,900人の利用児童となっている。

こうした状況の中で、増大する保育受容に対応するための規制緩和が行われている。

例えば、定員の弾力化(定員を超えての受入が可能)、保育所の設置主体制限の撤廃、短時間保育士の導入等が規制緩和として行われている。これらは、保育の質の確保という観点からも議論される問題だと考える。更に、平成16年度からは、公立保育所の運営費等が「三位一体の改革」により一般財源化されている。新たな課題として、指定管理者制度の導入により、保育所の民営化が一層推進されることも危倶される。

(2)宇都宮市にみる公立保育所の現状について

保育士等職員にも直前まで知らされずに公表された。また、その後、移転新築される予定の保育所がその地域に民間保育所を設置するため廃止されることになったりと、地域や利用者の要望を反映した計画策定とは言い難いものとなっている。規制緩和の一環として、有限会社及びNPO法人立の保育所も開設されるに至った。

宇都宮市が中核市となった時期に、保育体制の見直しが行われ、保育士の配置基準が市独自の加配から国基準に近づけられた。保育所の人事管理面では、平成10年度から、定数外臨時保育士制度を導入、平成13年度から定数内嘱託保育士となり、正職員の配置から嘱託保育士にシフトしている。

また、人事に試験制度が導入され、組織体制が保育所の運営にも影響している。保育需要の高まりの中で、延長保育等に対応するため、従来の超過勤務手当から時差出勤の対応になった。早朝、夕方勤務が短時間臨時保育士となり、保育の質に影響していると考えられる。定点の弾力化により、定員を超えた利用児童のため、午睡は大きな布団に3人あるいは4人で寝ている状況である。保育環境も悪化している。

乳児(0歳児)保育は、従来公立保育所では実施していなかったため、設備面でも空き室を改造したりして、環境的にも十分とは言えない面がある。保育の現場では、心身の発達を促す重要な時期の乳幼児をせかせるように保育しているのが実態である。

(3)助言者による状況分析

■神戸大学教授 二宮 厚美(特別参加)

90年代の保育所は、定員制れの状態で、公立保育所を中心に廃止する保育所が多かったが、政府、財界主導の政策で、共働き家庭世代が保育所を必要とし、少子化傾向の中で、利用者が増えている状況となっている。政府、財界が、自分達で低賃金労働者を生み出しておいて、きちんとした保育体制で行わずに、安上がりめ保育行政を行っている結果が現状である。日本の保育は、内容ではトップクラスである。それは、保育運動がつくりあげてきた。母親が中心となり、いい保育を求め、先進的な役割を果たしてきた。その結果、条件は悪いが、中身はいい保育を実現できた。それらの多くは、共同保育所から認可保育所となってきて、地域で実践され、それらが公立保育園に活かされてきたためである。

保育士の人件費の算定は、保育所達営費という国の基準で決定されている。その基準はかなり低く設定され、保育士の人件費を減らし児童数を増やすことになっている。

いい保育を保証できる保育所という点で、今問われているのは、保育、保育士と言う専門的職務「知的熟練」が必要な職務であると言うことである。また、それが蓄積されていくことである。保護者と保育者が連携してそれらを作っていく必要がある。

指定管理者制度は、マニュアル保育を助長する要素を持っている。管理権限まで委託されると、権限を委譲された管理者に保育士は、従わざるを得ない。また、管理者はコスト面で短期契約社員を雇用することになるので、専門的職務「知的熟練」とはかけ離れたいわゆるマニュアル保育にならざるを得ない。

こういう状況では、保育所を自分達で作っていく、地域・保護者・保育所で連携しして保育所を作っていく視点が重要である。


■風の子保育園 園長 長谷川 一宏

風の子保育園は、共同保育園から出発し、認可を得て現在に至っている。共同保育園時代からだと、保護者(母親)たちが変わって来ている。まず、母親たちを受け入れていくことから始めていく必要がある。子育てを一緒にしていく視点が重要である。そのためには、保育士に余裕が必要であり、保護者と話し合う湯が必要となる。

風の子保育園では、子育て支援センターや児童館(学童保育)も行い、地域に根ざした保育園を目指している。「知的熟練」を蓄積していく作業、保護者と保育者が連携してそれらを作っていく作業をどうするか、話し合えるようなことが重要。

(4)質疑応答

保育園によっては保護者との話し合う場が少ない。保育園の本来の目的について等。

 

A食の安全を考える

○参加者16名

分科会「食の安全を考える」は、ちょうど鳥インフルエンザ問題が、山口県や京都府山城地区で発生し、その対応の失敗で他県に広がり大きな問題となっているなかでのシンポジウムで時期にあった取り組みでした。

はじめに、助言者の宇田 靖(宇大農学部教授)先生から、食の安全に係わる事例と、安全確保体制の見直しの必要性や、食の安全確保のための法制の見直し等について報告がありました。 

その後、3名のシンポジストから、それぞれの立場から食の安全について報告と問題の提起がありました。

農民連栃木県連合書記長の海老原恒夫氏は、BSE牛問題や、鳥インフルエンザが人間に食の安全について警告を発していろと今の状況に危機感を示した。その上、コメの減反と亡国農政、食料自給率の低下と輸入食品の激増、それに伴うアレルギー体質の子供の増加していると報告。アフリカの国よりも低い日本の食料自給率、世界の130位と低い中で減反政策を続け中山間地の荒廃がすすんでいるとの報告があった。今年は、国際コメ年、WTO改定と食料主権確立を求めようとの提起があった。

茂木町の学校給食センター栄養士の戸丸輝美氏からは、学校給食の「安全と食育、民間委託について」報告がありました。現在、茂木の学校給食はひとつのセンターと2つの共同調理場で、1,500食を作り「安全な給食を心を込めて作り学校へ届けよう」をモットーに給食関係者一体となり取り組んでいる。年度始めに給食の運営方針を学校に提出し、運営委員会、給食主任会を開き学校側の要望を取り入れた給食に取り組み食事のマナー、食事アレルギー児対応や栄養指導地元農産物の活用等で新鮮で季節を味わえる給食を提供してきている。最後に、これらに取り組んでいて感じることは、学校給食で民間委託した場合は労基法により委託の調理員に栄養士が直接指導できないということであり、子供の生命を育む食べ物の大切さを教える学校給食は、公的機関として調理員、栄養士、給食関係者が一体で取り組んでいくことが出来る今の直常の学校給食の方がよいのではないかと強調した。

生活協同組合の「よつ菓会」副理事長の冨居登美子氏は、「とちぎ食の安全ネットワーク」を消費者、生産者、学識経験者を中心に昨年設立してきた。シンポジウム等を開設。県に対して、食品の安全要望書を提出しました。また、生協として産直の取り組みをして、生産者の顔が見え、生産方法がわかり、生産者と組合員の相互交流ができたことで、食の安全性を高めることが出来ました。今後の課題として、産直商品のレベルアップ、自然災害による不作を通して、農業の実態を理解し、生産者と消費者の壁をはずす。また、地産地消の取り組み、県内産小麦の商品化、県内産大豆の商品化を目指す。農薬の散布減少等栽培方法の改善をしてゆく。生協は、生産者と消費者の間に入って生産者の「声」、消費者の「声」を知らせてゆくのが仕事であり大きな役割ではないかと今後の活動についての報告があった。

会場からも質問を受け、パネリストや助言者と一体となり、食の安全について今後も取り組んでいくことを確認し終了した。

 

B高齢者福祉と地方自治

○報告者:金田 正代(栃木県社会保障推進協議会事務局長)
○参加者:8人

◆報告「高齢者福祉と地方自治」(栃木県の現状と展望)の概要

(1)1950年の社会保障制度審議会(首相の諮問機関)勧告では、社会保障は憲法25条第1項の生存権を根拠とし、第2項で規定する国の保障義務を明確にうたっていた。しかし、95年の社会保障審議会(厚労大臣の諮問機関)では、社会保障の理念は「自助」、「共助」、「公助」だ等として憲法25条で規定する生存権と国の責任を不明確にしてしまった。

(2)このような中で住民参加の福祉社会を実現していくためには、住民の人権感覚が必要である。宇都宮市では年金者組合の運動等により介護保険第2段階の人の保険料減免制度が出来たが、該当者7000余人の内、申請したのが170人程度という状況で市のPR不足もあるが、人権感覚が不十分という点もある。

(3) 年金者組合が中心になった10数団体による高齢期要求共同行動は13年目を迎え、県及び49市町村との要求書に基づく懇談を通じて、一定の成果を上げてきたが、年金・医療・介護の要求だけでは、加盟団体の要求に応えられなくなっており、本年度から「地域住民要求実現共同行動」に名称を変え、要求項目の見直しを実施しようとしたが、準備不足で従来の要請行動にとどまった。今後、文字通り「住民要求実現」の運動に変えていきたい。

◆討 議

(1)戦後社会保障制度が財界の圧力で堀り崩されようとしている。また、国民の生活感覚の中で社会保障が希薄になってきている。高齢者に出来る事は人権感覚を育て、心豊かな若者をどれだけ育てる事が出来るかである。

(2)1月13日厚労省は、平成16年度の介護保険の予算を前年度比1/3カットすると発表し、その結果、計画されていた特養、老健施設が先送りになり、入所待機者が23万人から更に増えようとしている。

(3)05年度介護保健制度改定で、障害者支援費制度と介諌保険制度を統合する動きがある。障害者にも1割負担が課きれるなど改悪が進められようとしている。

(4)住民要求実現共同行動は、関東近県では地域労連・地域社保協などが中心で取組んでいるところが多い。 

C 初めての財政分析講座

○講師:多摩自治体問題研究所 副理事長 大和田一紘 氏
○参加者数:12名(ほとんどが自治体の財政分析を初めて体験する人でした)

◆講義の概要

 当研究所がこれまで連続して財政分析を行ってきた小山市の2002(H14)年度決算カード(決算状況表)をもとに、大和田先生が準備された財政分析に関するいくつかの表の項目を参加者が実際に1つ1つ書きこんで作成し、具体的な自治体の財政状況を多角的に見るという形式で学びました。

 今回はまず、歳入歳出の財源の種類(経常一般財源、特定財源)のうち経常一般財源(自治体が自由に使えるお金)に着目し、その使い方よって自治体の特徴が見えてくるということで、歳入歳出の経常一般財源による科目のランキングを作成したり、財政の自由度を示す経常収支比率の算出などをしました。また、充当一般財源の歳出を目的別、性質別でランキング表を作成して小山市の特徴をみました。目的別歳出をみたところ、民生費の割合が全国平均の約20%に対して14.5%と5ポイントほど低く、福祉分野に対してあまり積極的でない状況が伺えました。

 通常1985(S60)年度を基準年として経年の推移を追って財政分析をしていくのですが、今回は時間も少なくあまりつっこんだ財政分析はできませんでしたが、参加者それぞれが財政分析のポイントをつかむことができたと思います。

【今回の他ポイント】

・財政分析は習うより慣れろでこつこつと取り組むとだんだんわかってくる。
・栃木県の決算カードの仕様は臨時財政対策債の記述などが不親切でわかりづらい。
・他の類似団体との比較をすれば注目する自治体の特徴がより見えてくる。
・日野市では市民が一から学習して財政分析をし「日野市民白書」を刊行した。

 

D 市町村合併交流会

○助言者 太田正作新学院大学教授(とちぎ地域・自治研究所副理事長)
○参加者 約25名

◆内 容

合併の分科会では、日光市の小島喜美雄市議からは枠組みや取り組みの是非を問う住民投票条例制定の運動や、黒磯市の住民投票条例制定の運動と市長リコール運動の経験が植竹市議の報告、宇都宮市との合併を拒否した高根沢町議会の事情、大平・藤岡・岩船3町合併が破談になったいきさつ、また地元壬生町からは、隣の宇都宮市との合併を主張する3人の町会議員が参加しそれぞれの主張がなされる一幕もありましたが、全体としては各地から「住民参加の立場」からの報告や意見が活発にだされ、最後に、事務局より「市町村合併を考えるとちぎネットワーク準備会」の立ち上げとどの合併にも参加しない自治体の首長さんに呼びかけ長野県の自律研究チームにならって、栃木でも「とちぎ自律研究会」(仮称)の設立準備の呼びかけがありました。

-------------------------(三)まとめ -------------------------

最後に各分科の報告が手短に行われ、参加者は、各分科会の内容を共有し散会しました。


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